Y太が慌てて「お前のせいだろ!!やめろ!」と私から女の子を引き剥がしてくれましたが、
マニキュアで加工された長い爪で力一杯引っ掛かれた私の顔からは、だらだらと血が流れていました。
痛いという感覚もあるにはあったのですが、それよりも今目の前で起こっている出来事が現実のこととは思えず、そして何よりそんな出来事に自分も巻き込まれていることが信じられず、私は呆然としていました。
取り押さえられた女の子はなおも叫び続け、テーブルに置いてあったコップやらフォークやらナイフやらを投げつけてきます。
店員が不安そうに、でも忌々しそうにこちらのテーブルの様子を伺っているのがわかりました。
こんな状況に置かれていることが怖くて情けなくて悲しくて、思わず泣けてきましたがなんとかこらえました。
しばらく泣き叫んだあと、女の子は力が抜けたように大人しくなり、茫然とした顔をしていました。Y太が改めて私のほうに向き合い、説明を始めました。
まず、この女の子はI子といい、Y太の妹であること。
事の発端は嫌がらせが始まるはるか前、1年前にY太がK助に、妹としてI子を紹介したことから始まっていたのです。
K助はI子と浮気をしていました。
私という彼女がいること、将来結婚したいと考えていることを話した上での関係だったそうです。
K助と付き合い始めた当初はI子にも彼氏がおり、お互い割り切った関係だったのだそう。
しかし、彼氏とも別れ、フリーになったI子は次第にK助に本気になっていきました。
一方K助のほうは天然なのか牽制のつもりなのか、I子に対して頻繁に私とのことを相談していたそうで、I子はK助が私に何度もプロポーズをしていることも、私がK助のプロポーズを笑ってかわしていることも知っていました。
そしていつものように秘密の逢瀬をしていたある日、K助はI子にあるお願いを切り出します。
曰く、「俺のプロポーズに協力してほしい」と。