・取締役会が水曜日に迫った週明けの月曜、朝一から営業部は取引先からの
クレームの電話が鳴り響いた。もちろん、その担当は常務派の奴らのみ。
・いちゃもんでもいいからクレームを入れて、取引停止を匂わせろと
根回しした奴らに指示した結果だった。
・常務派の奴らが全て出払った後、残った約1/3の営業部の人間を集め、俺と
Bから、奴らがクレーム処理出来ない場合は、俺とBで全て対応するから
フォローを頼む。と言い、残った奴らの士気を高めた。
・午後からポツリポツリと常務派の人間が帰社したが、皆一様に落ち込んでおり
目を腫らしている奴もいた。
・当然随行した間男、二課長も同様で、部長・常務に至っては会ってさえ貰えない
状況だったらしい。まぁ、これも指示のうちなのだが。
・俺とBは両課長にクレームがあった取引先のリストをその日のうちに出させて、
翌日より二人で謝罪行脚(のふり)。取引額の少ない所から順にクレームを
取り下げさせ、俺らの誠意は伝わったが、今までの担当者とは付き合えない
と言わせた。
・帰社すると椅子にふんぞり返った間男と二課長が何故額の大きい所に行かない?
と文句を言った(予想済み)ので、俺達は部下のフォローで現状手が回りません。
使えない上司のフォローまでは出来ません。自己責任でしょう?と言ったら
二人とも怒って、今の言葉忘れるなよと捨て台詞を吐き、出ていった。
・五分後、内線が鳴った。部長からの呼び出しで、Bも呼び出された。
・部屋に行くと両課長がおり内容は案の定、先の発言への注意と今回のクレーム
対応の全責任を俺とBが負って処理するようにとのお達しだった。
・冗談じゃない。部下のフォローで(ry…と演技した後、自分らで出来ないなら
出来ないと言ってください。と油を注ぎ、いいだけ怒らせた後、分かりました
と言って部長室を出た。
・運命の水曜日、出社後すぐにBと共に謝罪行脚に出かけたフリをして10時から
行われる取締役会の会議場脇の部屋で時間を潰した。
・取締役会が始まりしばらくすると、Aが俺たちを会議室の前まで誘導した。
・Aが議場に入ったタイミングで社長が緊急議題として営業部の大量クレームの件
を挙げ、常務に答えを求めた。
・末端ではあるが取締役でもある部長が、その件は俺とBに一任したと報告した。
・では、直接聞いてみようと社長が言い、Aが俺たちを議場へ入れた。
・動揺する部長と常務、処理はどうなってる?と聞かれたのでこう答えた。
・常務及び常務派の役員、営業部長、両営業課長と各担当社員の退職を条件に
クレームを取り下げて頂きました。
・当然怒る部長と常務派の役員、だが常務は目を瞑って沈黙を守っていた。
・…そういうことか、俺君。常務はそう言うと俺の目を見て立ち上がった。
・部長、もういい。それが条件なら私は退陣しよう。すまないが、皆も頼む。
・そう言って常務は歩き始め、社長に深々と頭を下げた後、入り口付近に立つ
俺に擦違い様、すまなかったと言って肩を叩き議場を後にした。
・つられて退場する常務派の役員たち。一様に俺の顔を睨みつつ退場していった。
・最後に部長が退場し、お前、いったい何をした?とムナ倉を掴んできたので
・まだ分からないんですか?今回のクレームを出した取引先、担当している
常務派の社員と役員、そしてこの場に俺が居る。それがどういう事か?
・それでも分からないならあんたも相当の使えない人間だよ。
・部長は声を挙げようとして止まり、目を見開いて…嫁か?と答えた。
・これとは別に、皆さんにも責任は取ってもらいますよ。と言って俺は
部長を振りほどいた。
・うなだれて退出していく部長の後姿を見ても、何も感じられなかった。
・Aに声をかけられ、我に返った俺は退出の挨拶をし議場に背を向けた。
・退出中、俺に社長室で待つように言われ、Bと別れ、Aと共に社長室に入った。