③
HとK子はすれ違うより結婚!とアクセルを踏んだ。
どうも二人は私が嫉妬でHとK子の仲を引き裂こうとしていると思い込んだようだ。
管理者一同満場一致で心境は「やめとけ」だったが、これも個人の勝手なので口出しはしなかった。
とはいえ私に結婚式の招待状が届いた時には二人の正気を疑った。
おめでたい席に、15年以上前とはいえ一時期同棲したことのある女が出席しては水を差しかねないと辞退を訴えたのだが「出席できないのはHさんに未練があるからだ!」というK子のはっちゃけぶりに諫めるのは無理かと上司として参加することにした。
傍から見たらK子のはっちゃけは、反対されると燃え上がるという恋をした若い子にありがちなもののように思われた。
披露宴当日にK子父が夫の部下だとわかった。
夫とK子父はたまに飲みに行く仲。
その際に何度か嫁同士が酔っぱらった夫の飲み仲間を車で自宅まで送り届けたことがあり、奥様とも面識がある。
披露宴会場に入る前に夫の部下と再会し、K子父だとわかってご縁がありますねと挨拶をした。
その披露宴は途中まで滞りなく進んだが、H母の相変わらずの息子ラブっぷりにK子は結婚してから苦労するだろうなと思いながら義理を果たしていたのだが、そのH母がマイクを握ったことでややこしいことになった。
新郎から私が参列していると聞いていたのか、「息子ちゃんの過去の女〇〇(私のフルネーム)が年甲斐もなく息子を奪おうと乗り込んできました。二人には妨害にめげず温かい家庭を励んでいただきたいです」と訴えた。
あの瞬間の新郎の勝ち誇った顔は、思い出すたびにあまりの次元の低さに頭が痛くなる。
繰り返すが、私は新婦の父親の上司の嫁。奥様とも面識がある。
K子が夫の部下のお嬢さんだとわかった以上、一生に一度のお式を台無しにするわけにもいかず席を立つことなく聞き流していたのだが、新婦両親は真っ蒼になった。
アイコンタクトで落ち着いてと言ったのが伝わったのか、その時は新婦両親も大ごとにはしなかったがお式の後に連絡があり、事実確認の場を設けることになった。
K子両親から謝罪を受けた後、Hと付き合っていたのはまだ私がK子と同じ年の頃で、一時期同棲したこともあるが今の二人とは仕事以上の接点はない。
実際K子がお二人のお嬢さんだと知らなかったくらいの浅い付き合いしかない。
ただ、現場の管理者として仕事上不適切と判断すれば指導することもあるが、二人がそれをどう捉えるかは本人次第なのでこちらとしてはどうすることもできない。
披露宴の出席に関しても、お祝い事に水を差しかねないと辞退したが出席を新婦から強く希望されやむなく出席した。
新郎と、新郎両親の人柄については私から言うことは何もない。若気の至りでも同棲に至った相手なので、双方の親とは面識があるが、別れた後は付き合いもなく過ごしていた。
ということを、なるべく刺激しないよう言葉を選んで伝えた。