こう得意げに吹聴していると古株たちに昼食中に聞かされ、ちょうど啜っていた味噌汁を私は鼻から噴いた。
笑いの発作がおかしなところに入った私の背中をトントンしてくれた古株も苦笑いしていた。
どうも私の苗字が変わっていないことから、バツイチの子持ちから復縁を迫られていると思い込んだようだ。単純に一人娘が婿をいただいただけなのだが。
Hの言い分のうち、上二つはすでに書いているので最後の電話番号について補足すると、場内の管理者は全員業端を持っているので、現場作業員とやりとりする際は業端から。
携帯を持っている全作業員に私用で使うことも、外部に漏らすこともないので預かる旨を書面にして、署名捺印してもらったうえで預かる。
古株には番号の変更の有無の確認をとった。そのなかにHもいた。
Hからすれば長く働いた部門が閉鎖され、新設された部署に移ったら上司の半数は自身より若い世代で、中途採用で戻って来た私が上司の一人になっていたのでは鬱憤も溜まったことだろう。
私をさげることでプライドを保とうとしたのか、新しくできた若い彼女や若手に見栄のひとつも張りたくなる心境は理解できなくもない。
ただしそれは古株全員に言えることで、内心で面白くないと感じても仕事である以上割り切るしかない面でもある。
仕事に支障さえ出さずにいれば中年男の妄想ですんだのだが、支障を出すからこちらは指導せざるを得ない。そんな悪循環が続いた。
HとK子の何よりまずかった点は、TPOを弁えられないこと。
具体的には休憩時間が終わっても二人の世界から作業場に戻ってこない、職場で喧嘩をするたびにK子が泣いて仕事にならない、Hが年下の班長の指示に従わず独断で周囲に作業を割り振ること。
そのころには閉鎖された部署から移ってきた古株の多くには、ベテランにしか務まらない部門を担当してもらっていたのだが、こういった点が問題視されHはその候補から漏れていた。
場内で働く人間は日勤のみの作業員のほか、三班編成の交代勤務で24時間回している。
新人作業員は日勤、作業を覚えて独立後に班編成に組み込まれる。
HとK子は同じ班の所属だった。
最終的には工場長が時間を設けて個別に面談をし、派遣のK子には派遣元からも指導が入った。
それでも改善されなかったため二人を別の班の班員として振り分けた。
私を含む管理者側としては、Hと付き合いはじめてTPOを疎かにするようになってしまったK子の社員登用の話がなくなってしまったことが惜しいと思っていた。