嫁はとても優秀だったから、二つの奨学金を受けながら大学生活を開始した。
もっとも東京は家賃が高いし、生活費もかかるからバイト三昧の生活だった。
嫁と俺が初めて結ばれたのは、嫁が大学に入学した年の初夏、ちょうど今ぐらいの時期。
俺はものすごく緊張した、子供のころに嫁にした下品な悪戯の罪悪感が蘇ってきて。
わけもわからなかった嫁が突然泣き出して、驚いた謝った記憶とかが。
その年の晩秋に嫁と俺は一緒に暮らし始めた、俺の部屋に嫁が引っ越してくる形で。
俺はなんとか嫁に普通の大学生活を送らせてやりたかった、勉強させてやりたかった。
どうせ俺の学校なんて、恐ろしいほど無名の馬鹿大だから問題無かったし。
もう必死でバイトしたさ、俺の学費や家賃は親父が払ってくれてたけど、嫁の学費も稼がないといけなかったから。
洋服だって買ってやりたかったし、オシャレもさせてやりたかった。
今思えば一番楽しい時間だったかも知れない。
貧乏だったけど、こいつが傍にいてくれたらなんにもいらないって心から思ってた。
嫁には夢があってさ、大手の総合商社でエネルギー関連の仕事がしたいっていう。
そのためには英語は最低条件で、ネイティブ級の能力が必要になる。
結局俺は大学4年の春に退学した。
無意味に1年過ごして卒業したところで、たかがゴミみたいな大学だから。
嫁を留学させるために切実に金が必要だったこともあって。
もちろん嫁は反対したし、必死で止めようとした。
だけど俺は押し切ってそのまま、またまた屁みたいな会社に就職した(今の会社)。
給料だけじゃ足りないから、バイトも始めた。
忙しい毎日だったなー今思えば、ただ俺と嫁の二人の夢のためだったからさ。
嫁はね、掃除は潔癖レベルで出来るんだけど、料理が苦手で。
俺が疲れて帰って来ると、作ってくれるのは有難いんだけど、まずいんだよねw
まあそれも今となっては懐かしい思い出だけどさ。
苦労ばっかりの生活だったけど楽しかったよ。
そしていよいよ嫁の就活が始まる時期にスーツ買ってやったんだ。
貧乏だったからさ、ブランド品とかは無理だったけど、それでも10万近くするわりと高めの。
こんな高いのいらないって必死で言う嫁に言ったな。
「一流の商社の面接受けるんだろ?ちゃんとした格好して行けよ」
嫁は大泣きしてた、可愛かったよ、自分自身が幸せな気持ちになれたな。
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