「慰謝料は、その教団に、寄付として、奪われてしまったそうです」
「ああ、道理で、両親がたまに申し訳なさそうな顔をしたのよね」
「それと、大変申し上げにくいのですが」
「はい」
私の心は冷め切っていた。
「その、儀式の内容は、出回っているんです」
「つまり、売ってお金に変えていたわけですか」
「…」
「販売元は?」
「いえ、そこまでは」
「外出許可を下さい。でないと私恩人にすらなにするかわかりません」
「自暴自棄な気がしませんか?」
「なってませんよ。やっとつかみとった自由に近い立場です。でも、奪われたお金は取り戻さないといけないでしょう?」
「それは」
「それとも私を養ってくれますか?愛してくれます?
私先生を愛していけると思いますけど。」
「……すみません」
260: 6 2011/06/30(木) 16:03:29.87 ID:Vn9h8hXS0
「不謹慎な冗談ですみません。いろんな男の慰み者になった体なんていりませんよね。大丈夫。必要がないなら無茶はしません。でも、お伽話じゃないんです。大して魅力もない眠り姫の末路を少しは考えてください。退院した後、大学にも通い直したいです。人生をやり直すために、整形だってするかもしれない。苗字を変えたり、色々やらなきゃいけないんです」
「未来のためにですね?」
少し驚いたような顔をしていた。
「Aのホラは本当になったんです。今更無理やり行為一つで御託を並べるものですか。でも、盗まれたものは少しでも取り戻します」
「わかりました。信頼します。ただ、出来る限り僕を同伴で」
「ロクでもない女をみることになりますよ」
販売元の会社はすぐにみつかった。
マンションの一室に事務所を構える零細映像製作会社。
私は販売されているテープを全て見た上で乗り込んでいった。
彼らは、大変驚いていた。
私はこの映像が私の同意の元で撮影されたものではないと言った。
話はスムーズだった。何せN医師がつきそってくれていたからだ。
かといって、投稿者を不利にしてしまえばこんな会社はすぐに潰れる。
事前に調べた限りでは、こういう会社の販売するビデオはたいていはヤラセだが、中には本物も混じっている。
その本物を求めて、こんなくだらない会社の制作物を買い漁るクズがいる。
そんなクズの欲求を満たすだけしか能のない会社なんて、信頼を失ったら、ボンッ、だ。
面談に応じた社長が職員のほうをちらちらみた。そしてこちらを見ているものと目があうと目配せをする。
それに気づいた職員がすぐにパソコンに向かった。
私はすっと、席をたち。その背後に近づいていって、中指を折り畳み、関節をその職員の背中に押し当てた。
「下さるのよね」
「は は はい!勿論です」
何か勘違いをしたようだが、こうして円満に同意を得られた。
抵抗する社長さんには、あまり抵抗するとおおっぴらにしない気が変わるかもしれないと言って理解をいただいた。
261: 6 2011/06/30(木) 16:06:09.00 ID:Vn9h8hXS0
映像はもとからある程度編集されていた。
ただし素人のそれ。夜とはいえ、病院の窓の向こうの景色が一瞬うつっていたり。
Aのものとよく似た声が写っていたりもした。
十分材料になるようにダイジェストムービーにして、私はあの牢獄みたいな病院に向かった。