それは彼女の妹(以下、妹子)。
妹子はカニ、エビ、タケノコ、そばのアレルギーがあって、この田舎の老人たちによって何度も被害にあってきたらしい。
最近はアレルギーがポピュラーな存在になったけど
子供のころは田舎ゆえアレルギーに理解ある人がほとんどいなくて
しかも冠婚葬祭によくあるメニューの食材だったことが災いして、残すと
「なぜ食べない」
「なぜ残す」
「贅沢だ。わがままだ」
「ウチを祝う気がないのか」
と集中砲火を浴びていたらしい。
そんな妹子ちゃんはたくましく生き延び、いまや立派な酒豪に育った。
俺や親父に「飲め飲め」と差し出される酒を、無言で次々奪い取って飲んでいく妹子ちゃん。
最初はやんややんやだった老人どもも、妹子ちゃんの鬼気迫る様子に次第に無言になっていった。
途中からは、妹子だけに任せておけんと俺の彼女も参加。
なぜか発奮したらしいうちのオカンも親父を守らねばと参加。
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妹子ちゃん、彼女、うちの母の三人の女の働きによって酒はほとんど飲み尽くされた。
彼女と母は普段飲まないが、けっして飲めないわけじゃない。むしろ強い。
そこにザルに近い酒豪の妹子ちゃんが加わり、
みるみるなくなっていく酒に、座敷の老人と青年会連中はポカーン。
なおも俺にからもうとする彼女の同級生男を
「あたしより酒弱いくせに、えらそうに」
「他人に飲め飲め言うわりに、あんたちっとも飲んでないよね。すぐ吐くからでしょ。あんたこそだらしない」
とせせら笑う妹子ちゃんに報いるため、
俺はその間、青年会に持ち寄られたエビとカニをむさぼり食っていた。
その後、結納は日時と場所を変え、料亭にて無事終了。
彼女両親は娘たちの決タヒのふるまいを見て思うところあったらしく
「子供のころのお前たちを守れなくてすまなかった」
「もうあんな思いはさせない」
と反省して約束したそうな。