女性の母親の家でふとしたことから私名義から、毎月十数万の入金記録が残された通帳と私が娘に宛てた手紙やお祝い品の数々を見つけ、母親に問い質すと、復縁を考えていた矢先に私が再婚をしてしまったこと。
私の養育費を使わず娘を育て上げようと決めていたものの、止むを得ず養育費に手をつけてしまう度に私がそれ見たことかと嘲笑っているように思え、悔しさと憎さで私のことを悪く言ってしまったこと。
気が付けば父親を憎むようになっている娘に愕然とし、何度も本当のことを話そうとしたものの、日々憎悪を深める娘に言い出すことができなかったこと。
娘が私と会うことを決めた時、気が気でなかったこと。
私の浮気は嘘だったことを告白しました。
女性は深く頭を下げ、
「早く会って謝りたかった。ひどいことをしてしまいました。ごめんなさいお父さん。」
「お父さん。」
願いが叶いました。
私の知っている気遣いの出来る心優しい娘がここにいます。
片時も忘れること無かった娘に、何もしてやれない娘に、お金にだけは困らないように生活を精一杯切り詰め、昇進して収入を増やし娘の為に少しでも多くの養育費を渡そう。
そう心に決め仕事に打ち込み、いつかもう一度娘から「お父さん」そう呼ばれる日が来るのを願い努力して来た苦労が今、やっと報われたのです。
しかし、何の感情も湧くことはありませんでした。
私は「そんなことはどうでもいい。私も一度だけ会いたかったんだ。」
鞄から現金の入った封筒を取り出し女性の前に置きました。
これが相続分及び将来発生するであろう慶弔費であること。
父親としての義務は全て果たしたこと。
もう関わらないことを話し、注文票を手に取り席を立ちました。
清算を済ませ店を後にし、駐車場へ向かっていると娘だった女性が追いかけて来ました。
「本当に知らなかった。酷いことをしてごめんなさい。」
「お父さんが悪いと信じ込んでしまっていた。」
「これからお父さんと思い出を作りたい。」
「子どもが出来たらお父さんに会わせたい。」
「お父さんに恩返しがしたい。」
「行かないで。お父さん。お父さん。お父さん。」