自分が世話になった実の親でもこの状態だったら面倒をみるのはむずかしい。
ましてやもともといじめられた思い出しかないクソトメの世話をするのは辛すぎた。
それなのに夫は自分の親の世話を手伝いもしない。
仕事が忙しいから家のことは主婦がするのが当然と、本当に何もしない。
下痢したトメがおむつを外し、悪臭の部屋は地獄絵図と化していた。
唖然としながらも、そのままにしておくわけにもいかず、
受験勉強のためにと早起きしていた娘に手伝ってもらって、もくもくと片付けをした。
1時間かかって汚物の片付けがほぼ終わったころに、昨夜酔っぱらって帰った夫が起き出してきて、
「おれのメシがない。着替えがない」と騒ぎ始める。
子どもたちはそれぞれに冷蔵庫にある昨日の残りを勝手に食べて登校したので
申し訳ないけど夫も適当に自分ですませてほしいと言うと、
「おまえは専業主婦のくせに一家の主のメシの支度すらできんのか」
「三食昼寝付きの無駄飯喰らいの怠け者」
「おまえのようなやつを嫁にもらってやった感謝もないのか」
などなど、夫は罵詈雑言浴びせ始めた。
寝不足でふらふらになっても我慢してきたわたしのなかで、このときなにかが切れた。
「あなたは自分の親を介護しているわたしの姿が目に入らないのですね。
介護が簡単なことで家事の片手間にできるというのでしたら、自分でやってごらんなさい」
と、わたしは夫に口答えした。
いままで反抗したことないわたしに激高した夫が、
「おれは家事だろうが介護だろうがおまえより上手にできる自信がある。
だがおれの稼ぎがないとやっていけないから、仕方なく働いてやっているんだぞ」
と怒鳴り散らしているので、
「稼ぎならあなたからいまいただいている分以上にわたしが持ってきます。
ですから、あなたはわたし以上の家事と介護というのをやってみせてください」と言い放った。
実家が自営で兄が後を継いでいるのだが、長く勤めている有資格者の人が辞めたので、
わたしに仕事に戻ってきて欲しいと打診がきていたところだった。
介護が忙しいなら時間の融通もきかせるとのことだった。
わたしは実家の仕事を長く手伝ってきた経験もあるし、必要な資格も持っている。
給料は中小企業の平社員である夫の手取りよりはかなり多いものを用意するから、
と兄は言ってきていたのだった。
夫には介護を理由に一時的に仕事を休んでもらった。
(会社でそういう制度ができたところだったらしい)
そしてわたしは仕事へ復帰した。
一切の家事はせず、介護も手伝わず、家には寝に帰るだけにした。
子どもたちは男女ともに自分のことは自分でできる程度に躾けてあるので、
食事も洗濯も自分たちのことは自分たちできちんとしていたので問題なかったようだ。
一週間経たずに夫はねをあげた。
土下座して、「主婦業が楽だなんてとんでもありませんでした」と土下座してきた。
夫がトメを風呂に入れようとしてぎっくり腰になったのをきっかけに、
トメは介護付き有料老人ホームに引き取ってもらった。
ラストです。
ホームは県内でも屈指の高級なホームとよばれるところだった。
夫の稼ぎではむりだけれど、わたしの給料があればラクラクはいることができた。
ホームはまるでホテルのような設備のあるところで、
手厚い介護もしてもらえるし、医療設備も十分にととのっているし、
レクリエーションも充実していて、家にいるときよりトメは元気になり、
こざっぱりとして生き生きしてみえる。
クソトメだけれど介護してきた分家族という情もあるので、
ホームに任せっぱなしということもできず、夫とふたりで毎週トメの見舞にいく。
トメの生き生きした姿を見て嬉しそうにする夫の顔をみながら、
「トメさんに今の生活をさせてあげられるのは誰の力だか知ってる?」と言う。
夫は「いい嫁さんがわが家にいてくれるおかげです」と困った顔をしながら笑う。
縦のものを横にもしないだめ夫が、今は子どもたちと一緒に家事にも参加する。
「おかあさんのおかげでこの家がまわってるんだ。おれたちは感謝しなきゃいけないんだぞ」
と、えらそうに時々夫はこどもに説教してしているが、こどもたちには
「おとうさん、そんなこといまごろわかったの?」と笑われているようだ。
子供さんも健やかに育ってるんだなあ
やっぱり資格って大事なんだな