休みの日2人で車坂（超ローカルですまん）のホンダプリモに出向きメタリックブルーのフェリオを契約
まだ珍しかったエアバッグ機能もついてて180万円なり
おかげで貯金は100万切っちまったが満足だった
これが人生の絶頂からドン底に叩き堕とされる序章とは
当時思いもしなかった
「明日病院に行くのに車使いたいんだ」
嫁の申し出を俺は快諾
なのに翌日車乗って出勤しちまった
未だに悔やんでも悔みきれない
嫁から会社に電話かかって来た
「今日車貸してって云ったよね？」
「そうだった。ゴメン」俺は平謝り
「もういいよ。タクシー使うから」
これが嫁と交わした最後の会話だった
病院の帰り、嫁を乗せたタクシーが追突され
嫁は即死
そもそもなぜ嫁は病院に行ったと思う？
あることを検査するため
妊娠3ヵ月だった
なんてことだ
俺は嫁と子供を殺したんだ！

嫁の葬式の記憶は全くない
俺自身が喪主をつとめたにも関わらずだ
そんな俺でも仕事だけはこなした
職場のおばさん達は「あんな状態の佐久間さんに仕事を押し付けるなんて社長も工場長もひどい」と云ってたそうだが
むしろ俺は仕事を与えられてありがたかった
じっとしてたら気が狂いそうになるから
とにかく生ける屍状態だったな、俺は
だが嫁の遺品を整理してたら涙腺が崩壊した
ウェディングドレスのカタログが何冊も出て来た
嫁、ウェディングドレス着たかったんだなぁ
なんで気づいてやれなかったんだよ！
レンタルで写真撮ってって、それくらい出来た筈だ

とにかく俺は嫁と子供を殺した
嫁の親御さんはそんなことないよ、自分を責めるなと云ってくれたけど、なんの慰めにもならなかった
息子が出来たと、よく呑みに誘ってくれた義父
俺の好きななめろうを差し入れてくれた義母
決して経済的に裕福とはいえない嫁実家（俺の実家はもっと酷かったが）で
大学に行きたがってたが親には云えなかったから
俺が学費を負担したら、この御恩は一生わすれません、と土下座せんばかりだった義妹
素晴らし過ぎる嫁一家に比べたら俺の家族はマジで糞だった
嫁の保険金やら加害者からの損害賠償金やらで口座には1億超える金が振り込まれたが
こんなありがたくない金もなかったな
世の中には金じゃ買えないものがあるって思い知った
この金にさらに10億上積みすれば、お前の女房生き返らせてやる、
そう云われたら俺は心臓売ってでも金作んぞ！