意外にも嫁はそれまで彼氏ができたことなかった
男性不信だったんだな
俺？云うまでもなく彼女なんかできたためしなかった
勿論女性経験なし
ママゴトみたいな同棲生活がスタートした

何遍も訊いたんだ
「俺なんかと一緒にいて楽しいか？」
「俺なんかって禁止。アタシみたいな美人（本当にこう云った）が夢中になるくらい、あっちゃんには魅力があるんだよ」
「俺の魅力って何？」
「教えな〜い。だって教えちゃったらそこばっかり意識しちゃうから。そしたら魅力じゃなくなっちゃうもん」
「もしかして俺のこと憐んでる？」
温厚な彼女が珍しく激怒した
「信じられない！なんでそこまで卑屈になるの？あっちゃんこそアタシを憐んでる？一方的に振り回して来たもんね。迷惑ならはっきり云ってよ！」
「そんなことないよ。恵子が好きだ！愛してる！誰れにも渡したくないよ」
嫁はチラッと赤い舌を出して笑った
「言質とったかんね。そうかあっちゃんアタシを愛してんだ。でもねアタシはそれ以上にあっちゃんのこと愛してんだよ」

婚姻届を出すために戸籍抄本だか謄本だかを取りに飯岡まで行った
2人でいつまでも灯台のある丘から海を眺めたっけ
指輪も披露宴も新婚旅行もなかった
お金なかったしね
何よりも披露宴なんかひらいたって友達のいない俺は誰れも招待出来なかった
ある事情で小中学校の友人を全て喪ったんだが
ここでは関係ないから割愛
でも結局籍はいれなかったよ
いつか披露宴も新婚旅行も指輪も買えるまではって

当時の仕事はとにかく激務だったがその分見入りは良かったよ
基本給の1.5倍くらい手当がついたから
月に1日は代休日に消化しきれない有給を充てがうなんて裏技も覚えた
後に親会社から出向して来た経理課長からは認めないと云われたけどね
とにかく働いて働いて働きまくった
だいぶお金が貯まったから旅行にでも行こうかと云ったんだ
でも嫁には却下された
「連休なんかとれないでしょ？休みの日だって仕事の心配ばかりしてるのに。それよりさ車買おうよ。貯金もかなりあるんだから、奮発して新車をキャッシュで買っちゃおう」
それまではボロカリーナ乗ってたからね
俺も勿論賛成、で何がいいかなって話になって
お互いに希望の車種を出したら見事に一致
シビック・フェリオ
当時ジョディー・フォスターがコマーシャルやってたやつだ