線香は毎朝お嫁さんがあげるようになって、お婆さんは仏壇の前に居る時間が長くなった
何時間も「線香一本あげられなくてごめんなさい」と呟いては仏壇に頭を下げて過ごす
めっきり出歩くことが減り、食事も残しがちになって明らかに痩せてきているのだという
万が一在庫があったらと言われたけれど問屋にだって残ってはいなかった
その後お婆さんは数回店にやって来た
老人が痩せるということは若者のそれとは大分違う
皮の下の内臓と骨が剥き出しに近づいていくと、ほんの数ヶ月で一気に幽鬼じみた姿になる
その日も以前のチャッカマンはありませんかと尋ねられたが答えは変わらない
帰り際に彼女は「どこかの馬鹿なガキのせいで……!」と何度も繰り返し呟いた
怒りと悲哀に歪められた老婆の表情
朗らかに笑っていた頃を知る人間の誰一人想像し得なかったろう情景が最期の姿になった
チャッカマンともしびを手に取る度に思い出す