女上司「部下君、あなたはサンタクロースであると同時に営業マンでもあるのよ」
部下「!」
女上司「営業マンが“お客のニーズが分からないので、商品は売り込みません”でいいと思う?」
部下「……思いません」
女上司「そうよね」
女上司「とりあえず、その子の家に行ってみましょう。何か欲しいもののヒントがあるかもしれないし」
部下「はいっ!」
部下「この子です」
少年「……」スースー
部下「部屋も殺風景で……好きな漫画やキャラクターも分からないですね……」
女上司「ちょっと待って」
少年「……ママ……」
女上司「ママ……?」
部下「――そうか、思い出した!」
部下「サンタには一応、担当地域の子供達のパーソナルデータも知らされるんですが」
部下「この子は母親を亡くしてるんです」
女上司「お母さんを……」
部下「だから、プレゼントを欲しがる余裕がなかったんだ」
部下「もっというと、この子が最も望んでいるのは天国の母親ってことに……」
部下「しかし、いくらサンタでもさすがに死者を連れてくるなんてことは……」
女上司「……」
女上司「諦めるのは早いわ」ガサゴソ
部下「ちょっと何してるんです!? 人の家を勝手に……!」
女上司「あった、アルバム! この子のお母さんは、と……この人ね」
女上司「これなら……」ボフボフ
部下「化粧なんかしてどうするつもりです?」
女上司「いいから、見てなさいって。化粧品メーカー営業課長の実力を!」
女上司「どう?」
部下「……! 似てる……! この子の母親そっくりだ!」
女上司「私と比較的似てる人でよかったわ」
部下「それでもここまでできるなんて……」
女上司「化粧品メーカーに勤めるならこれぐらいできないとね。実演することもあるんだし」
女上司「……さてと」
少年「……」スースー
女上司「起きて……起きなさい……」
少年「……?」
少年「あっ、ママ!? ママ!」
女上司「そうよ、私よ」
女上司「サンタさんに無理をいって、天国からほんの少しだけ下りてくることができたの」
少年「ママ……!」
女上司「ごめんなさいね、あなたを残して……」ギュッ
女上司「学校はどう?」
少年「うん、楽しいよ!」
女上司「パパとはうまくやってる?」
少年「最初は二人で落ち込んでたけど、今はなんとか……」
女上司「そう……ホッとしたわ。もう少しだけお話ししましょっか」
少年「うん……!」
部下「……」
部下(凄いな、まるで本当の母親のようだ……)
女上司「もう……大丈夫ね」
少年「うん、大丈夫!」
女上司「じゃあ来年からはちゃんとサンタさんにプレゼント頼むのよ。でないとサンタさんも困っちゃうから」
少年「分かったよ、ママ」
女上司「それじゃ……元気でね」
少年「ママも……」
女上司「それではサンタさん、天国までお願いします」
部下「分かりました」
シャンシャンシャン…
少年「……」
少年(トナカイのソリに乗って、サンタさんとママが飛んでいく……)
少年「ママ……サンタさん……ありがとう」グスッ
シャンシャンシャン…
部下「お見事です、課長。まさか、あそこまであの子の母親になりきるなんて……」
女上司「うん、それなんだけどね」
部下「?」
女上司「途中まではたしかに私が喋ってたんだけど、途中からは体が勝手にペラペラ喋ってたのよね」
部下「え」
女上司「私が知らないはずのあの子のことまでペラペラと……」
部下「それって、もしかして――」
『ありがとうございました……』
二人「……!」
女上司「今の……聞こえた?」
部下「ええ、聞こえました……」
部下「課長があの子の母親そっくりに化粧したことで、なにか波長のようなものが合って」
部下「天国からあの子の母親が下りてこられたのでは……」
女上司「なおかつサンタさんが活動できる夜ってのも関係してるかもしれないわね」
部下「そうですね。こういった奇跡が起こるにはうってつけの夜です」
女上司「だとしたら、私たちは最高のプレゼントが出来たってことね!」
部下「はいっ!」
シャンシャンシャン…
女上司「もうすぐ朝になるわね……」
部下「今年もどうにか無事プレゼントを配り終わりました」
女上司「サンタさんって大変だね」
女上司「こんなに大変な思いしてるのに、自分はプレゼントもらえないなんて」
部下「いや、そんなことないですよ」
女上司「え?」